研究代表者ご挨拶
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研究代表者
大阪大学大学院医学系研究科
精神医学分野 講師 数井裕光
私たちの国では近年、高齢化が急速に進み、これにともない認知症の患者さんの数も増えています。認知症の原因となる病気には様々なものが有り、その中には治療により元の生活に戻れる病気があります。しかし多くの病気には根治できる治療法はなく、ゆっくりと進行していくことが多いです。認知症の患者さんには、認知の障害(物忘れ、自分のいる場所や時間がわからない、言葉が理解できない、道に迷うなど)が認められます。これとともに行動・心理症状と呼ばれる症状もよく認められます。この行動・心理症状は最近、英語のBehavioral psychological symptoms of dementiaの頭文字をとってBPSDとも呼ばれるようになってきました。これには、妄想(誤った強い思い込み。家族が自分の大切な財布などの物を盗ったという物盗られ妄想は代表的)、怒りっぽさ(些細なことで大きな声を出して怒る)、不安(非常に強く、誰かがそばにいないとその人を探し続ける。心配のあまり何度も確認をする)などが含まれます。BPSDは認知の障害以上に、患者さん本人の生活の質を低下させたり、患者さんの周囲の人の悩みの原因となったり、患者さんの施設入所の原因となったりします。

このBPSDは認知障害とは異なり、治療可能なのです。BPSDが非常に強く、早く治療しないといけないときは薬を使って治療します。しかしBPSDの治療の基本は、患者さんに対して周囲の人が適切な対応をとることです。患者さんに対する接し方や声のかけ方によって、BPSDは軽くなったり重くなったりするのです。そのため、患者さんに対する接し方はとても重要で、BPSDに対する対応法を説明した書籍が数多く出版され、書店に並んでいます。しかしこれらの本に書かれている声かけ法や対応法が、実際にどの程度の確率で有効なのか、悪くすることはないかなどについては、検証されていませんでした。

今回、私たちは、認知症患者さんに対して現在、提案されている様々な対応法や声かけ法がどの程度有効なのかについて、インターネットを利用して全国的に大規模調査することにしました。ただ、ある時点に一回の調査をするのではなく、継続的に調査し続けるというスタイルをとります。皆さんには、まずこのホームページに書かれているBPSDに対する対応法を試していただきたいと思います。そしてその対応法が有効であったか、有効でなかったかを書き込んでいただきたいのです。もしも有効でなかった場合は、異なる方法で対応されたのだと思います。その対応法とそれが有効であったかどうかもまた書き込んでいただきたいのです。このように、患者さんに対して有効な対応法を見つけるまでに、試行錯誤をすることはやむを得ないと私は思っています。しかしこの試行錯誤の情報こそが、今後よりよい対応法を見つけるために役に立つと思っています。皆さんのご協力をお願いいたします。

皆さんから収集した情報は大阪大学情報科学研究科に設置された専用コンピュータに記録され、解析されます。そして妄想、怒りっぽさ、不安などのBPSDやその他のいくつかの症状ごとに、有用な対応法を、それが奏功する確率とともに公開する予定です。全国からデータを継続的に収集しますので、その時までに集まった情報に応じて、奏功確率は替わると思いますし、最も有効とされる対応法が替わることもあると思います。

H26年度から開始されている私たちのこの事業は、日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業の中で私たちに受託された公的研究事業です。(以下正式課題名)

■H26-28年度
「ICTを利用した認知症ケアのための情報収集・蓄積とグッドプラクティス自動抽出システムの開発と検証研究」
■H29-31年度(予定)
「認知症者等へのニーズ調査に基づいた「予防からはじまる原因疾患別のBPSD包括的・実践的治療指針」の作成と検証研究」
■H29-33年度(予定)
「適時適切な医療・ケアを目指した、認知症の人等の全国的な情報登録・追跡を行う研究」

本研究事業遂行を推進・支援する認知症ちえのわnet関係者についてはこちらをご覧ください。認知症の患者さんが穏やかに日常生活を送られるような社会作りに、今回のシステム構築は役立つと心から思っております。そのためには、皆さんからの多くの書き込みが必要です。何卒、ご協力をお願い申し上げます。